東京のカタスミで、

山城ショウゴ

家庭科のプリントを失くしてしまった。

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息抜きにブログを初める事にしたのですが、一日中引きこもっている事が多い僕には、あまり書く事がありません。そこで、今回は少し前にあった話を書いてみようと思います。

 

 

あれは小学校5年生の夏、家庭科の授業中だった。僕は、その授業の終わりに提出しなくてはならないプリントを、失くしてしまっていた。

そのプリントは前回の授業の時に配られたもので、今回の授業で更に空欄を埋め、先生が回収する段取りになっていた。

そのプリントを、失くしてしまっていた。

 

はっきりいって、正常な精神状態ではなく、自分だけがそのプリントを持っていない事実に、絶望していた。小学校5年生の僕は、今の自分からは全く想像できないほどに真面目な人間で、勉強もでき、割と優等生だった。それゆえに、授業で使うプリントを失くしてしまうなんて・・・完全に目の前は真っ暗。

プリントファイルにそのプリントが入っていない事に気づいてから10分ほど、僕は完全に放心状態だった。

 

20分たって、窓際に座っていた僕は窓を5センチほど開けていた。

外から風をとりこみ、隣に座っている中川君のプリントを吹きとばす為に。

 

どう考えてもプリントを用意する事はできない。諦めた僕は、友達を道ずれにしようとしていた。しかし5センチの隙間から入ってくる風の力では、中川君のプリントを吹きとばす事はできない。

 

10センチ開けた。

風が教室に入ってくる。不幸中の幸い。その日は台風が近づいている事もあり、風が強かった。中川君の前髪はもう、完全になびいている。

プリントが微かに動き始めた。しかしまだ足りない。この程度の風ではプリントを吹きとばす事はできない。

 

20センチ開けた。

勢い良く、風が教室に入ってくる。中川君が涼しそうにしている。プリントがパタパタとなびいている。プリントは、上に置かれた鉛筆の支えによってなんとか机にしがみついている状態。あと一歩・・。鉛筆が邪魔だ。

 

中川君が使用していた鉛筆は当時流行っていたバトルえんぴつバトエン

コロコロ転がして戦う鉛筆で、本来はコロコロ転がっているべき物。

ふざけるなと思った。あの鉛筆さえなければもう間違いなくプリントは吹き飛ぶはず。

全神経を鉛筆に集中させた。するとある事に気づいた。

中川君のドラクエバトエンは、芯を削って欲しそうにこちらを見ている。

僕は、完全に丸みをおびている中川君の鉛筆を書きやすいようにしてあげる為に、芯を削ってあげる事にした。

「鉛筆。書きにくそうだね?削ってあげようか?」

と声をかけると、中川君は嬉しそうに鉛筆を僕に差し出した。

 

 

間抜けすぎる。

 

鉛筆の支えを失ったプリントは、窓の隙間から入ってくる僕の風によって、宙を舞った。中川君は自分のプリントがフライアウェイしている事に気付いていない。

完全に僕の勝利だ。

削ってやった鉛筆を間抜けな中川君に返却する。

 

中川君は書きやすくなった鉛筆を片手に握り締めて、床に落ちたプリントを拾いあげ「ありがとう!」と僕に言った。

 

中川君は良い奴だった。