コーヒーとムキムキとボクシング
僕はコーヒーが好きだ。
毎日飲んでいる。5、6杯は飲んでいる。一日中家にいたりする時は、10杯ぐらい飲む時もある。
飲み過ぎは絶対体に良くないし、控えようとは思っているんだけど、飲んでしまう。
コヒーの味が好きというよりかは、もはやなんかこう、儀式みたいなとこある。
タバコとかギャンブルには全く興味がないけれど、「やめられない」みたいな気持ちは、なんとなく少し理解できる気がする。僕は、コーヒーをやめられない。
朝起きたら絶対コーヒーを飲む。最近はご無沙汰だけど、気が向いた時は自分で豆をひいたりする。ぐるぐるーって回すやつでガリガリする。
僕にとって重要な事は、美味しいコーヒーを作ることではない。
正直なところ、ぐるぐるするやつでガリガリしている時、なんかこう「イイ気持ち」になっちゃってると思うし、黒かったら良いみたいなとこある。
でも、インスタントコーヒーを飲むなら絶対「ネスカフェのゴールドブレンド」が良い。他のやつも色々試してみたけど、正直これ以外は、自分に合わなかった。ゴールドブレンドは割と美味しい。結構好き。
何をするにしても、大体コーヒーが飲みたくなる。
本を読む時。映画を見る時。掃除をする時。洗濯をする時。散歩に出かける前。
パソコンを触る時。ベランダに出る時。ブログを書く時。電気の紐でボクシングをする時。
僕は、電気の紐でボクシングをするのが好きだ。
毎日、2、3回はやっている。
電気の紐っていうのは、分かるとは思うけど、あの電気の明るさを調節したり消したりつけたりの時に使う、あの紐。カチカチってするやつ。あの紐を使って僕はボクシングをしている。
前後に、左右に、時々トリッキーな動きをしてみせたりする。癖になる。
たとえば「電気の紐でボクシングをしているところを彼女に見られて、振られてしまいました・・どうしたらいいですか?」という悩み相談がインターネット上にアップされていたとしても、そのリスクを背負った上で、僕はボクシングがしたい。
僕は、拳とは無縁の環境で育ってきた。誰かに本気で殴られた事もないし、殴った事もない。平和な環境で、のびのびと甘やかされて育ってきた。どこかで僕は、殴ったり、殴られたりみたいなのに憧れているのかもしれない。
その思いが積もりに積もって出口を失い、僕は今日も、電気の紐でボクシングをしている。
僕は昔、ずっと、電気の紐でボクシングをする自分を隠して生きていた。
友達にも言わなかったし、家族にも隠していた。ところがある日、僕はその現場を、友人に目撃されてしまった。
高校2年生の、夏。
時間は21時頃。僕はその日、地元の友達「ムキ純」の家に遊びに行く約束をしていた。
「ムキ純」っていうのは、筋肉質な友達のニックネーム。ムキムキな純だから、ムキ純。そこまでムキムキじゃなかったりする。
当時「ムキ純」の家には、週3ぐらいで遊びに行っていた。地元のメンバーで、行ける人が行けるタイミングで行って、集まる。そんな感じだった。主にロクヨンの大乱闘スマッシュブラザーズ、を叫びながらやっていた。僕はそこにいる誰よりも、一番弱かった。
その日の夜も、ムキ純の家に行く予定だった。一緒に行く友達と、僕の家の下で待ち合わせをしていた。家に来るまで少し時間がかかりそうだったので、僕はいつも通り、
♯お風呂上がりに♯全裸♯電気の紐で♯ボクシングをして時間をつぶしていた。
そこに、友達が思ったより早く家の下にやってきた。
キキーーという自転車のブレーキ音と、窓からの目視による後方確認で、友達の存在を確かめることができた。
目視で。
窓全開で、カーテンも全開で。心地よい風を感じながら、僕は電気の紐に夢中になっていた。
紐の動きが、遅くなる。まるで時間が止まっているかのようだ。
こんなに隙だらけの電気の紐を、僕は見たことがない。
しばらく前後にゆられた後、紐の動きが止まる。
窓から入ってくる心地よい風が、僕の髪と、電気の紐をなびかせた。
見られてしまった。
電気の紐で、ボクシングをしているところを(裸)、見られてしまった。
その一件から僕は、彼の口コミによって、裸で「電気の紐でボクシング」をしている変な奴になってしまった。
すっかり変態だ。
でも僕はその日から、なんだか、自由になれた気がした。
どこまでも、行ける気がした。